井の頭の住宅

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井の頭の住宅

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所在地:東京都三鷹市
構造・規模:木造
地上2階建
竣工年月:2023年8月
敷地面積:76.31m 2
建築面積:32.21m 2
延床面積:60.27m 2
設計:若原アトリエ
構造:長坂設計工舎
施工:竹駒工務店
家具製作:ハオアンドメイ
不動産コンサル:創造系不動産
 
写真:中村絵

緑と音楽が共鳴する住まい

 
 計画地は井の頭公園から少し離れた武蔵野の面影が色濃く残る閑静な住宅街の中にある。敷地の西側には玉川上水に沿って設けられた緑道があり散歩やジョギングをする人々が行き交っている。ここに40代単身者男性が、周囲を気にせず好きなレコードを聴きながら豊かに暮らせる住まいを計画した。
 
 敷地面積は約23坪。建物は平面が3間x3間+440㎜で約9坪少々の木造二階建。外観は玉川上水沿いの樹々を背に日没前の一瞬、空の明るさと森の暗さの対比が生まれ闇の中にルネ・マグリットの絵画のようにひっそりと佇む小さくて可愛いらしい切り妻屋根の住まいをイメージした。内部は一階に和室(寝室)と水回りを設け、居間、食堂・台所を2階に配置。玄関は階段室と兼ねることで、コンパクトな家の中にも縦への広がりを生み出そうと考えた。また玉川上水の緑をダイナミックに取り込むよう西側に幅3mの大きな窓を設け、その窓に向かってソファを配置することで、まるで緑の奥から音楽が聞こえてくるような居場所をつくろうと考えた。階段室にも窓からの木刈が差し込み、階段室下の土間には木々の影が落ちてくる。階段室と和室の間は大きな障子で仕切られていて開け放つと敷居がベンチとなり、ここにも居場所が生まれている。階段の踊り場には机と小さな本棚をつくり書斎とした。窓からはやや死角になるこの場所は篭りながら仕事に集中できる場所になった。机の背面にはレコードをしまう棚がありキッチンと一体的にデザインされている。食堂は一人暮らしでもしっかりと料理ができるようにL字型に計画。ダイニングテーブルも合わせて計画することで使いやすさと美しさを両立するようにした。テーブル脇の窓の視線は道路の抜けと一致していて、ここでも心地よい広がりが与えられている。音楽を楽しむソファも、この住まいのために新たにデザインした。階段の手すりも機能面だけでなく音楽のような流れを感じられる形態とし、大きな窓の景色を邪魔しないよう高さの設定も工夫している。二階の空間は切妻屋根の形がそのまま室内の空間となり南側にトップライトを設けた。これは玉川上水の樹々によって西陽がかなり遮られることを考慮したためである。
 
 完成した住まいには光と影、そして身体感覚から導かれる様々な寸法の関係性によって「豊かな居場所」があちこちに散りばめられている。そうした場が立体的に繋がりをもつことで「小さな家」でも面積以上の広がりが感じられる住まいとなった。さらに緑と音楽の共鳴によって「この場所にしかない豊かさ」を獲得することができた。
(新建築住宅特集2022年9月号)

雑誌/書籍
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